血と汗とVHS!日本のホラーファンが愛した80年代カルトB級ホラー映画ベスト10
1980年代――それはホラー映画にとって、スプラッターとスラッシャーが全盛を極め、「ビデオ」というメディアが隆盛を誇った、まさに狂乱の時代でした。メジャーなスタジオがヒット作を連発する一方で、低予算ながらもアイデアと情熱、そして過激な表現力で観客を熱狂させた「B級ホラー」が世界中で量産されました。
特に日本では、この「80年代B級ホラー」が「闇ビデオ」などと呼ばれ、レンタルビデオ店の片隅でひっそりと、しかし確実に多くのホラーファンを生み出す温床となりました。そこには、大手配給会社が扱わないような、規制すれすれの、あるいは完全に逸脱したような作品が溢れており、日本のホラーファンの感性を大いに刺激したのです。
この記事では、そんな80年代の「純粋なホラー」に焦点を当て、メジャー級ではないものの、その強烈な個性から日本でもソフト化されるなどして、今なおカルト的な人気を誇るB級ホラー映画を、当時の熱気も交えながら独断と偏見で10本ランキング形式でご紹介します。血みどろの特殊効果、奇想天外なクリーチャー、そして常軌を逸したキャラクターたち…失われたビデオ時代の興奮を、ぜひ追体験してください!
※ 本記事で紹介する作品は、過去に日本国内でソフト化(VHS/DVD/Blu-rayなど)された実績がある、または現在も比較的入手可能な作品を中心に選定していますが、現在の在庫状況や配信状況を保証するものではありません。また、非常に過激な表現が含まれる場合がありますのでご注意ください。
第10位:サマーキャンプ殺人事件 (Sleepaway Camp) (1983)
- 監督: ロバート・ヒルトジク
- 概要: のどかなサマーキャンプを舞台にしたスラッシャー映画。内気な少女が参加したキャンプで次々と残虐な殺人が発生する。低予算ながらも、特に映画史に残る衝撃的なラストシーンでカルト的な地位を確立した。
- あらすじ: 過去のボート事故のトラウマで内向的になった少女アンジェラは、いとこのリッキーと共にサマーキャンプに参加する。しかし、キャンプが始まると同時に、アンジェラやリッキーに嫌がらせをした者たちが、次々と不可解かつ凄惨な方法で殺されていく。殺人鬼の影におびえるキャンプ参加者たち。そして物語は、観客の度肝を抜く衝撃的な真実へと突き進んでいく。
- 評価: 他のスラッシャー映画に比べると、殺害シーンの描写は比較的抑えめだが、その分、ジワジワと迫る不気味さと、登場人物たちの歪んだ人間関係が恐怖を煽る。そして何よりも、そのあまりにも有名なラストシーンが全ての印象を塗り替える。低予算ゆえの粗削りさもあるが、80年代スラッシャーの悪夢的な雰囲気をよく捉えている。日本でもビデオ時代から知られ、そのラストシーンは多くのホラーファンに語り継がれている。
第9位:血のバレンタイン (My Bloody Valentine) (1981)
- 監督: ジョージ・ミハルカ
- 概要: 炭鉱町を舞台にしたスラッシャー映画。かつてバレンタインデーに起きた凄惨な事故を巡る因縁から、再びバレンタインデーに殺人鬼が現れる。劇場公開時に大幅なカットを受けたことで知られるが、後に完全版がソフト化され再評価された。
- あらすじ: 平穏を取り戻しつつあった炭鉱町ハリファックス。住民たちは20年ぶりにバレンタインデーのダンスパーティーを計画する。しかし、それはかつて炭鉱で起きた事故で生き埋めになり狂人と化したハリー・ウォーデンが、唯一生き残った日にちなんで人々を惨殺した忌まわしい事件と同じ日だった。そしてパーティーを前に、再び炭鉱夫の格好をした殺人鬼が現れ、ツルハシを振り回して町の人々を襲い始める。
- 評価: 炭鉱町という舞台設定がユニークで、閉鎖的なコミュニティならではの陰鬱な雰囲気が漂う。殺人鬼の炭鉱夫スタイルも印象的で、ツルハシを使った殺害描写は非常にゴア度が高い。劇場公開版では約9分ものゴアシーンがカットされたが、ソフト化で復活した完全版では、当時の凄惨な特殊効果を堪能できる。定番のスラッシャー構造ながら、舞台背景や殺人鬼のデザイン、そしてカットされたことで伝説化した経緯も含め、80年代スラッシャーを語る上で欠かせない一本。日本でも完全版がソフト化され、ファンを喜ばせた。
第8位:ストリート・トラッシュ (Street Trash) (1987)
- 監督: ジム・ガーフィアン
- 概要: ニューヨークのストリートを舞台にした、究極の悪趣味スプラッター・コメディ…だがホラー要素も強烈。怪しい酒を飲んだホームレスたちが、溶解して死に至るという凄惨な物語。
- あらすじ: ニューヨークの場末のリカーショップの店主が、古びた地下室から「バイパー」という安物の酒を発見し、ホームレスたちに売りつける。しかし、この酒には恐ろしい秘密があった。飲むと体が内側からドロドロに溶解し、鮮やかな色に変色しながら破裂してしまうのだ。バイパーを飲んだホームレスたちが次々と凄惨な死を遂げる中、彼らを監督する巡査や、他のホームレスたちの間でも混乱が巻き起こる。
- 評価: ストーリーはあってないようなもので、本作の最大の特徴は、その過剰で創造的な溶解ゴア描写にある。ネオンカラーに溶解していく人体は、他に類を見ないインパクトがある。全編に漂う悪趣味でダーティーな雰囲気も強烈。コメディ要素もあるが、描かれる現実は非常に残酷で救いがなく、純粋な恐怖や嫌悪感も強く刺激される。日本でも「悪趣味映画」の代表格として語り継がれており、ソフト化もされている。B級スプラッターの歴史に燦然と輝く(?)怪作。
第7位:ザ・バーニング (The Burning) (1981)
- 監督: トニー・メイラム
- 概要: 夏のキャンプ場を舞台にしたスラッシャー映画。かつて子供たちの悪戯で全身に大火傷を負った管理人「クロプシー」が、復讐のために戻ってくる。特殊メイク界の巨匠トム・サヴィーニが参加した凄惨なゴア描写が見どころ。
- あらすじ: キャンプ場で子供たちの悪戯によって瀕死の重傷を負った管理人クロプシーは、数年後、退院して社会に戻るが、その全身は酷い火傷痕に覆われていた。復讐心に燃えるクロプシーは、子供たちが集まる夏のキャンプ場に現れ、園芸用の巨大なハサミ「植木バサミ」を手に、次々と若者たちを惨殺していく。楽しいはずのキャンプは、血と悲鳴に満ちた地獄と化す。
- 評価: スラッシャー映画の典型的な要素(キャンプ場、過去の事件、不死身の殺人鬼、若い被害者たち)を押さえた作品だが、トム・サヴィーニによる特殊メイクが突出している。特に、植木バサミを使った連続殺害シーンは非常に生々しく、当時の観客に強烈な印象を与えた。人物描写は薄いが、若者たちが一人また一人と殺されていく過程の緊迫感はしっかりと描かれている。日本でもビデオ時代から人気があり、そのゴア描写は多くのホラーファンにトラウマを植え付けた。80年代スラッシャーの佳作。
第6位:マニアック (Maniac) (1980)
- 監督: ウィリアム・ラスティグ
- 概要: ニューヨークの街を舞台にした、非常に陰鬱で暴力的なスラッシャー映画。心の闇を抱えた男が、通りすがりの女性たちを次々と惨殺していく。その生々しさと暴力性から物議を醸したカルト作品。
- あらすじ: ニューヨークに暮らすフランキーは、幼少期のトラウマから心を病み、女性を殺害してはその頭皮を剥ぎ取り、マネキンに被せるという猟奇的な行為を繰り返していた。彼は獲物を求め、夜の街を彷徨う。ある日、写真家のアナと出会ったフランキーは、彼女に惹かれるが、同時に内に秘めた殺意も高まっていく。彼の狂気はエスカレートし、逃れる術はないかに見えたが…。
- 評価: 低予算ながらも、ニューヨークの猥雑で危険な雰囲気を捉えた映像が印象的。殺人鬼フランキーの視点で物語が描かれることが多く、彼の歪んだ心理を追体験するような不快感がある。トム・サヴィーニによるゴア描写は非常に生々しく、特に有名な散弾銃による頭部破壊シーンは伝説的。単なるスラッシャーというよりは、都会の孤独と狂気を描いた心理ホラー・側面も持つ。日本ではそのタイトルと内容の過激さで、ビデオ時代からカルト的な人気を誇っている。
第5位:ブレインダメージ (Brain Damage) (1988)
- 監督: フランク・ヘネンロッター
- 概要: 『バスケット・ケース』で知られるフランク・ヘネンロッター監督による、もう一つの奇妙でグロテスクなボディホラー。人間の脳を食料とする寄生生物と、それに憑りつかれた男の悪夢のような日々を描く。
- あらすじ: 青年ブライアンは、ある朝目覚めると、自分の体に細長くヌメヌメした奇妙な生物が寄生していることに気づく。この生物の名はエイルマー。彼は人間の脳を食料としており、宿主であるブライアンに快楽物質を与え、支配下に置こうとする。ブライアンはエイルマーの要求に従い、無関係な人間を襲って脳を差し出すことを強いられる。快楽と罪悪感の間で苦悩するブライアンの体と精神は、次第に蝕まれていく。
- 評価: フランク・ヘネンロッター監督らしい、下品でグロテスク、そしてどこかユーモラスな独特の世界観が全開。エイルマーというクリーチャーの造形と動きが非常にユニークで、パペットによる表現が温かみ(?)と同時に生理的な嫌悪感を生み出す。脳を吸い出す描写など、ゴア描写も手加減がない。ドラッグの依存症をメタファーにしたようなテーマ性も持ち合わせている。日本では『バスケット・ケース』と共にヘネンロッター監督の代表作として知られ、カルト的な人気がある。
第4位:地獄より (City of the Living Dead) (1980)
- 監督: ルチオ・フルチ
- 概要: 『サンゲリア』で日本のファンにも強烈な印象を与えたイタリアンホラーの巨匠ルチオ・フルチによる作品。神父の自殺によって「地獄の門」が開き、死者が蘇るという奇怪な現象を描く。フルチらしい悪夢的な雰囲気と容赦ないゴア描写が特徴。
- あらすじ: ニューヨークに暮らす霊能力者の女性メリーは、ある日、神父が自殺したことで「地獄の門」が開いてしまう予知夢を見る。彼女は地獄の門が完全に開くという「万聖節」まで時間が残されていないことを知り、その門を閉じるために記者のピーターと共に自殺現場であるダンウィッチの町へ向かう。しかし、町では既に、墓から蘇った死者たちが人間を襲い、その内臓を抉り出すなどの凄惨な行為を繰り返していた。
- 評価: ストーリーの整合性よりも、個々の衝撃的な場面や雰囲気を積み重ねることで恐怖を生み出す、フルチ監督らしい構成。虫の大群、壁から血が噴き出す、そして代名詞ともいえる眼球えぐりなど、生理的な嫌悪感を煽る描写が満載。霧に包まれた不気味な町、絶望的な状況、そして常に漂う死の予感といった悪夢的な雰囲気が素晴らしい。日本でも『サンゲリア』に続き、フルチ作品として高い知名度を誇り、ソフト化もされている。理屈抜きで感覚に訴えかけるゴアホラーの快作。
第3位:バスケット・ケース (Basket Case) (1982)
- 監督: フランク・ヘネンロッター
- 概要: 結合双生児として生まれた兄と、分離手術によって切り離されバスケットの中で生きる弟を描く、奇妙で悲しい、そしてグロテスクなホラー。低予算ながらも強烈な個性でカルト的な人気を博した、ヘネンロッター監督の代表作。
- あらすじ: バスケットを持った青年ブライアンがニューヨークにやってくる。彼のバスケットの中には、分離手術によって切り離された結合双生児の弟ベリアルが潜んでいた。ベリアルは異形な姿をしており、知性はないが兄と精神的に繋がっており、兄の復讐心に乗じて、分離手術に関わった医師たちを次々と惨殺していく。ブライアンはベリアルを隠しながら生活するが、次第にベリアルの狂気と自身の孤独に追い詰められていく。
- 評価: 驚くほどの低予算で作られているが、ニューヨークの当時の猥雑な雰囲気や、ベリアルというクリーチャーの造形、そしてブライアンとベリアルの兄弟愛(?)と憎悪が混じり合った関係性が、観る者に忘れられない印象を残す。ベリアルの動きはストップモーションアニメやパペットで表現されており、そのチープさが逆に不気味さを高めている。悲哀とグロテスク、そしてブラックユーモアが混在した独特のトーンが魅力。日本でも「バスケットの中身」が話題となり、カルトホラーとして長年愛されている。
第2位:地獄の門 (The Beyond) (1981)
- 監督: ルチオ・フルチ
- 概要: ルチオ・フルチ監督による「地獄三部作」の二作目(日本での公開順)。ルイジアナ州の古びたホテルを舞台に、「地獄の門」が開いたことから起こる超常的な恐怖を描く。フルチ作品の中でも特に評価が高く、その雰囲気とゴア描写は伝説的。
- あらすじ: 若い女性リザは、ニューオーリンズにある古びたホテルを相続し、再建を計画する。しかし、そのホテルはかつて黒魔術師が惨殺された場所であり、地下室には「地獄への七つの扉」の一つが存在していた。ホテルの修復を進めるうちに、奇妙な出来事が次々と起こり始める。工事中に壁から無数の蜘蛛が現れたり、盲目の女性とその犬が現れたり。そして遂には地獄の扉が開き、死者たちがホテルに現れ、生者を襲い始める。リザと出会った医師のジョンは、この超常的な恐怖から逃れようとするが…。
- 評価: ストーリーはあってないようなものだが、それを補ってあまりあるのが、フルチ監督の作り出す悪夢的な雰囲気と、容赦のない創造的なゴア描写。眼球を酸で焼かれたり、犬に喉笛を食いちぎられたり、タランチュラに襲われたり…凄惨な特殊効果が畳み掛ける。特に、荒廃した病院でのクライマックスの絶望感と、意味不明ながらも強烈な印象を残すラストシーンは必見。日本でもフルチ作品として『サンゲリア』と並び称され、熱狂的なファンが多い。B級ながらも芸術的な雰囲気すら漂わせる、80年代イタリアンホラーの傑作。
第1位:ZOMBIO 死霊のしたたり (Re-Animator) (1985)
- 監督: スチュアート・ゴードン
- 概要: H.P.ラブクラフトの短編小説を大胆に翻案した、マッドサイエンティスト・ホラーコメディ…だが、ホラーとしての凄惨さも強烈。死体を蘇らせる薬を発明した男が引き起こす騒動を描く。80年代B級ホラーを代表する一作。
- あらすじ: スイスからアーカム大学に転校してきた医学生ハーバート・ウェストは、死者を蘇らせる秘薬を発明したと主張する。彼は同級生のダンを巻き込み、大学の死体安置所で実験を繰り返す。秘薬によって蘇った死体は理性を失い凶暴化。ウェストとダンは、彼らが蘇らせた死体や、彼らの実験に気づいた大学関係者、そしてウェストを追ってきた元教授の蘇った首など、次々と襲い来る脅威と対峙することになる。実験はエスカレートし、事態は手に負えない状況へと発展していく。
- 評価: ホラーとコメディのバランスが絶妙で、グロテスクなゴア描写にもかかわらず、観客を飽きさせない勢いがある。ジェフリー・コムズ演じるハーバート・ウェストのぶっ飛んだマッドサイエンティストぶりが最高。血飛沫と人体損壊の特殊効果は80年代中盤の技術の粋を集めたかのような出来栄えで、視覚的なインパクトが強い。ラブクラフトの原作を大胆に脚色しているが、その狂気的な世界観はしっかりと受け継いでいる。日本でも劇場公開され、その後のビデオ化でも大ヒット。今なお多くのファンに愛される、80年代カルトB級ホラーの決定版。
終わりに
1980年代のB級ホラー映画は、良くも悪くも「やりすぎ」な魅力に満ちています。増え続けるホラー作品の中で観客の目を引くため、作り手たちはより過激に、より独創的に、そしてより奇妙なアイデアを追求しました。低予算ゆえの粗削りさも、彼らの情熱とアイデアの前には霞んで見えます。
ここで紹介した作品たちは、そんな80年代B級ホラーのエネルギーを凝縮したような作品ばかりです。それらはVHSというメディアに乗って海を渡り、日本のホラーファンに衝撃と興奮を与え、今日のカルトホラー文化の礎の一つを築きました。
もしあなたが、最近のホラー映画に少し物足りなさを感じているなら、あるいはビデオテープが主流だった時代の熱狂を体験したいなら、ぜひ80年代のカルトB級ホラーの世界に飛び込んでみてください。そこには、血と汗と奇妙なアイデアが詰まった、忘れられない悪夢と興奮が待っています。